1. 導入:「安くできますか?」は、拒絶の言葉ではない
① 「高い」と言われたら、まずはチャンスだと捉えよう
「先生、見積もりありがとうございます。ただ、ちょっと高いですね…」
この言葉を聞いた瞬間、「断られた」「嫌われた」と背筋が凍る感覚になりませんか?
もしそうなら、今すぐその認識をアップデートしましょう。
多くの交渉の現場において、「高い」という言葉は拒絶(No)ではありません。
「この金額を払う価値があるのか、私を納得させてほしい」という「確認(リクエスト)」です。
相手はあなたに興味があるからこそ、価格の壁を乗り越える理由を探しているのです。
ですから、慌てて「じゃあ値引きします」と逃げる必要は一切ありません。
まずは「関心を持っていただいた」と前向きに受け止め、落ち着いて対話の席につきましょう。
② 値下げ交渉は「対立」ではなく「パズル」である
多くの税理士は、交渉を「安くしたい顧客 vs 高く売りたい私」の綱引き(対立)だと捉えて消耗してしまいます。
しかし、Vol.6で詳細見積書を作った私たちにとって、交渉はもっとシンプルです。
お互いの予算と業務範囲をすり合わせる「業務設計の調整(パズル)」に過ぎません。
・予算が足りないなら、機能を減らす。
・機能が必要なら、予算を増やす。
ただそれだけの話です。
相手を言い負かす必要はありません。これより紹介する技術は、敵対せず、納得して契約書に判を押してもらうための「合意形成」の型です。

2.基本戦術:「No」と言わずに「条件」を変える
① 鉄板の接続詞「Yes, but」
値下げを求められた時、絶対にやってはいけないのが「すみません、それはできません(No)」と拒絶することです。
かといって、「わかりました(Yes)」とそのまま飲むのもNGです。
プロが使うべきは、「Yes, but(肯定+条件提示)」の構文です。
(1) Yes(受容): 「なるほど、ご予算の都合があるのですね。承知いたしました」
(2) But(条件):「では(しかし)、ご希望の金額に収めるために、どの業務を調整しましょうか?」
まずは相手の「安くしたい気持ち」を肯定します。
その上で、Vol.6で作った見積書の項目を指差し、「金額を下げるなら、このブロック(業務)を外す必要があります」と提案するのです。
これにより、交渉の構図が「値引きのお願い」から、「予算内でのプランニング(共同作業)」へと変わります。
② 「値引き」ではなく「仕様変更」と言い換える
建設業やシステム開発の世界では、要件を減らして価格を下げることを「値引き」とは呼びません。「仕様変更(スペックダウン)」と呼びます。
税理士業務も、本来はこれと同じ設計思想で考えるべきです。
何の対価もなしに安くすることは「値引き」ですが、業務範囲を減らして安くするのは正当な「仕様変更」です。
・値引き: 「3万円を2万5千円にします(やることは同じ)」
→ あなたが損をするだけ。
・仕様変更:「2万5千円にするなら、毎月の面談を『3ヶ月に1回』に変更します」
→ 業務負荷が減るため、提供価値と価格のバランスが適正に保たれます。
無理な値引きでお互いに疲弊するのではなく、適正な品質を維持できる契約ラインを探る。
この姿勢を崩さないことが、長期的な信頼関係を守ることに繋がります。
3.実践トーク:言い値で契約しないための「条件交渉」
① 「端数を切ってよ」へのカウンター
最も多いのが「キリよく〇〇円になりませんか?」という軽いジャブです。
これに対し、ただ安くするのは悪手ですが、頑固に断って空気を悪くするのも避けたいところです。
ここで使うべきは、「条件付き調整(交換条件)」のテクニックです。
> 顧客:「この端数、なんとかなりませんか?」
> あなた:「原則として、業務品質を維持するために定価でお願いしておりますが…
> もし『顧問料を年払い(一括)』などの形でご協力いただけるなら、事務処理の簡素化で管理コストが抑えられる分、ご希望の金額で調整可能です」
あるいは、「毎月の訪問日程を、当事務所の指定日(他の顧客のついで)に合わせていただけるなら」などの条件でも構いません。
重要なのは、単なる値引きではなく「お客様にご協力いただいた(条件が変わった)から、合理的に安くできた」という形にすることです。これなら、あなたの価値を下げずに合意できます。
② 「他はもっと安いよ」へのカウンター
次に厄介なのが、競合(他の税理士)との比較です。
「知り合いの税理士は月2万円でやってくれるらしいよ」と言われた時、どう返しますか?
ここで焦って「じゃあウチも…」と言ってはいけません。
相手の提示する安さには、必ず「理由(前提条件の違い)」があるからです。
> 顧客:「B税理士は月2万円らしいんだけど」
> あなた:「なるほど、魅力的な金額ですね。
> ちなみに、その金額には『税務調査の立会』や『毎月の試算表チェック』は含まれていますか?**」
安さの裏には、「記帳代行のみ」「訪問なし」「調査別料金」などの可能性が隠れています。
Vol.6で作った詳細見積書を見せながら、「当事務所はこれら全てを含んでの価格ですが、先方はどこまでカバーしていますか?」と確認を促しましょう。
多くの場合、社長はそこまで確認していません。
「安さ=リスク」である可能性に気づかせることが、最大の防御です。
4.最終防衛戦:「AI・格安業者」と比較されたら
① 戦う土俵を「作業」から「責任」に移す
最近増えているのが、「ネットの記帳代行は月1万円だ」「AIで自動化できるから安くして」という声です。
これに対して「私の入力はAIより正確です」と戦っても勝てません。
戦う土俵を変えましょう。
AIや格安業者が提供しているのは「処理(Processing)」ですが、あなたが提供しているのは「専門家としての説明責任(Accountability)」です。
② 決定打:「有事の際の対応力」
究極の比較トークはこれです。
> あなた:「確かに入力作業だけなら、AIや格安業者は早くて安いです。
> ですが社長、もし税務調査が入って指摘を受けた時、その業者やAIは専門家として対応してくれますか?」
> あなた:「私は、顧問契約に基づき確認した数字について、専門家としての説明責任を果たします。万が一の時は、契約の範囲内で私が税務署に対応します。
> つまり、いざという時に誰がサポートするのか、という話です。
> この顧問料は、そうした専門家の継続的な関与と、有事の対応を含むサービスの対価でもあります」
AIツール自体は計算を行いますが、法的な責任主体にはなりません。
また、格安代行業者などの場合、記帳作業のみを契約範囲とし、税務調査対応は別契約または対象外とするケースが多く見られます。
「作業」にお金を払うのではなく、「専門家のサポート」にお金を払うのだと再認識してもらう。
これこそが、本シリーズで伝え続けてきた「価値翻訳」の集大成となるクロージングです。

5.【おわりに】
値下げ交渉は、怖くありません。
それは、あなたのサービスの「中身」について、顧客と深く話し合うための入り口です。
「安くして」と言われたら、心の中でガッツポーズをしてください。
「よし、これで私の仕事の価値(リスクヘッジ)を詳しく説明するチャンスが来た」と。
堂々と条件を提示し、納得して契約できれば、その顧客とは長く良好な関係が築けるはずです。
さて、これで契約は無事完了しました。
最後は、この関係を維持し、さらに信頼を深めるための「言葉の常備薬」をまとめておきましょう。
次回(Vol.8・最終回)は、契約後も顧問料の正当性を証明し続けるための「場面別・キラーフレーズ集」をお届けします。
