1. 導入:なぜ「うちは大丈夫」と言われるのか
① あなたの価値が「透明」になる理由
前回の記事では、税理士の価値の9割が水面下の「判断」にあることを解説しました。
今回は、その見えない価値を顧客に伝えるための、明日から使える具体的な「翻訳技術」をお渡しします。
まず、優秀な先生ほど直面する「平和のパラドックス」という壁を直視しましょう。
これは、「あなたが優秀でリスクを未然に消し去るほど、顧客の前ではトラブルが起きないため、逆に『暇そう』に見えてしまう」現象です。
「先生、うちは何も起きないから安くしてよ」
この言葉は、あなたの仕事が完璧である証明です。しかし、ビジネスとしては危険信号です。
なぜなら、顧客にとって説明されない価値は「ゼロ」と同じだからです。沈黙は美徳ではなく、単なる機会損失です。
② 「安心」の源泉を可視化する
顧客は「安心」にお金を払いたいと思っていますが、その安心が「誰のおかげで保たれているか」を認識できていません。
では、どうすればその「平和の価値」を可視化できるのか?
次章から、人間の心理特性を利用した具体的な「翻訳アプローチ(IFストーリー)」を解説します。
2.本論:見えない地雷を可視化する「IFストーリー」
① 利益よりも「損失」を語る
行動経済学において、人間は「利益を得る喜び」よりも「損失を被る恐怖」の方に、2倍以上強く反応すると言われています(プロスペクト理論)。
この心理を実務に応用しましょう。
「私に任せれば安心です」というポジティブな訴求よりも、「もしプロの判断を通さずに進めていたらどうなるか」という”IF(もしも)のストーリー”の方が、経営者の脳裏には深く刻まれます。
② 「もし、自動判定に任せていたら?」
具体的には、主語を「私」ではなく「誤った処理」や「機械的な自動判定」にして問いかけます。
「社長、クラウド会計やAIは便利ですが、あくまで計算機です。取引の文脈までは理解できません。
もし、機械的な自動判定を信じてこの経費を計上し続けていたら、3年後の税務調査でどうなっていたと思いますか?」
ここで初めて、顧客の脳内に「あり得たかもしれない最悪の未来」が映像として浮かびます。
この「映像」を見せることが、価値翻訳の第一歩です。
③ リスクの3階層:税務・金銭・信用
しかし、「追徴課税になります」という「税金の話」だけでは不十分です。
経営者に本当に刺さるのは、その先にある「銀行評価(信用)」の話です。
以下のように、リスクを具体的な実務例で3段階に深掘りして伝えてください。

(1)第一層(税務):
「この処理は否認され、修正申告が必要になります」
(2)第二層(金銭):
「本来の税金に加え、罰金(加算税・延滞税)で無駄なキャッシュが出ていきます」
(3)第三層(信用):
「何より怖いのこれです。例えば、経費否認で『役員貸付金』が膨らむと、銀行は『公私混同がある会社』とみなします。結果、格付けが下がり、融資がストップするリスクがあります」
④ 「具体的なチェック項目」で希望を見せる
恐怖で煽るだけでは不誠実です。最後に必ず、プロとしての「裏付け」で安心させてください。
精神論ではなく、具体的な監査項目を挙げることがポイントです。
「でも大丈夫です。私が今月チェックしたのは、AIが見落としがちな『使途不明金』と『資産計上の判定』です。ここを適法に処理したので、銀行評価は守られました」
ここまで具体化して初めて、顧客はあなたを「作業員」ではなく「経営の守護神」として認識します。
3.裏付け:「何もしない」が価値になるロジック
① 警備会社(SECOM)理論
ストーリーで感情を動かしたら、次は論理で納得させましょう。
「何も起きないこと」の価値を、警備会社を例に説明するとスムーズです。
「社長、警備会社に『今月は泥棒が入らなかったから金返せ』とは言いませんよね?
それは、『24時間の監視体制』という状態(リスクヘッジ)にお金を払っているからです」
税理士業務も、この「監視機能」と性質が似ています。
さらに税理士の場合は、機械的な監視に加え、「税法に照らして適正か」という高度な専門判断を毎月行っています。
「申告書を作る作業代」ではなく、「プロが監視している状態」にお金を払っているのだと伝えると、顧問先にもその価値を正しく理解してもらえます。
② 税理士法第33条の「署名」を武器にする
この「見守り」を言語化する際、税理士法第33条(署名の義務)が強力な武器になります。
私たちが毎月の試算表を見て「何も言わなかった」時、それは「見ていなかった」のではありません。
「専門家として適法性を確認し、問題ないと判断した」という、重みのある行為なのです。
第33条に基づく署名は、単なるサインではありません。誤りがあれば懲戒等の責任を問われる覚悟を持って、「法的安全を確認した」という証(あかし)です。
計算はAI、その結果に対する「適法性の保証(署名)」は人間。この役割分担こそが、これからの顧問料の対価となります。
4.おわりに:「作業員」から「守護神」へ
① 言葉が変われば、役割が変わる
ここまで、実務者の視点で「論理」を整理してきました。
最後は、それを経営者の視点(現場の言葉)にどう変換するか、具体的なアクションの話です。
明日からの顧客へのメール、月次の報告で、意識して少しずつ言葉を変えてみてください。
抽象的な言葉ではなく、現場の温度感が伝わる言葉を選びましょう。
(1) ×:「入力しました」
○:「税務調査で指摘されやすい項目を重点的にチェックしました」
(2) ×:「何もありませんでした」
○:「証憑を確認し、将来の税務リスクがない状態に仕上げました」
あなたが自分自身を「作業員」ではなく、トラブルを未然に防ぐための「企業の安全装置」だと定義し、言葉に出した瞬間から、顧客の扱いも変わり始めます。
② 次回予告:顧問料を「コスト」から「投資」へ変える
言葉を変えて価値を伝えても、経営者の頭に「顧問料=コスト」という意識がある限り、値下げ圧力は消えません。
そこで次回(Vol.3)は、顧問料を「経営防衛費」として再定義するロジックを解説します。
単なる経費ではなく、「銀行評価を上げて、金利コストを下げるための投資」として認識させる、数字に強い税理士ならではのアプローチです。
現場での一言を変えることが、適正対価を守る最初の一歩です。
次回のロジック編で、その守りを盤石にしましょう。

