1. 導入:「安くして」と言われるモヤモヤの正体
① 言葉にできない悔しさ
「先生、今回の決算、申告書を作るだけならもっと安くなりませんか?」
顧問先からこう言われた時、胸の奥がキュッと締め付けられるような悔しさを感じたことはないでしょうか。
「いや、ただ数字を入れているわけじゃないんだ」と言いたくなる気持ちを飲み込み、「まあ、今回は…」と曖昧に笑って済ませてしまう。
もし心当たりがあるとしても、自分を責める必要はありません。
この悔しさの正体は、単に報酬が下がるからではありません。
あなたの「専門家としてのプライド」や「知見」が、たった一言で「単なる作業」として扱われてしまったことへの悲しみだからです。
② 能力不足ではなく「構造」の問題
最初に断言します。
あなたが安く見られるのは、あなたの税務能力が低いからでも、交渉トークが下手だからでもありません。
税理士という職業が抱える「構造的な欠陥」が原因です。
あなたがどんなに優秀でも、この構造を理解し、対策を打たない限り、「安くして」の一言から逃れることはできません。
では、その構造とは何なのか? 次章からその全貌を解明します。
2.構造的欠陥:「価値」と「成果物」の非対称性
① 顧客に見えているのは「紙」だけ
税理士の価値が伝わらない最大の理由は、「税務の価値は“途中工程(プロセス)”にあるが、顧客に渡す成果物は“完成品の紙”しかない」という情報の非対称性にあります。
顧客は「結果(申告書)」にお金を払いたいと考えますが、プロである私たちは「過程(リスク回避)」に命をかけています。
このギャップが埋まらない限り、顧客にとってあなたは「高い紙を作る人」のままです。
② 氷山モデル:全税理士が行っている「見えない9割」
この構造を視覚化したのが「氷山モデル」です。

顧客には水面上の「申告書作成」しか見えていません。
「クラウド会計を使えばボタン一つでできるでしょ?」と言われるのは、この水面上しか見ていないからです。
しかし、その水面下には、全税理士が息をするように行っている「高度な判断プロセス」が隠れています。具体的には以下の3つです。
(1)事実認定と法適合性の判定
(例:この飲食代は交際費か会議費か? 税法と照らし合わせ、白黒つける判断)
(2)証憑(しょうひょう)の有効性監査
(例:この請求書は税務調査に耐えうるか? インボイス要件等の適法性確認)
(3)税務リスクのシミュレーション
(例:特例を使うメリットと、否認リスクの天秤かけ)
この「脳の労働」こそが商品の本体です。
しかし、この9割を伝えず、見えている1割(紙)だけでお金をもらおうとするから、「紙代が高い」と言われてしまうのです。
3.「合っていて当たり前」構造が価値を奪う
① 税務署が見ているのは「異常」だけ
さらに厄介なのが、この9割の努力を完璧にこなすほど、顧客からは「何もしていない」ように見えるというパラドックスです。
税務署は膨大な申告書の中から「選別業務(異常値の抽出)」を行っており、問題のない申告書は確認対象から外れます。
つまり、あなたが完璧にリスクを排除して作った「正しい申告書」は、税務署からすれば「見る必要のない透明な存在」になるのです。
(1)ミスをして調査が入れば「怒られる」(マイナス評価)
(2)完璧に仕上げて調査が来なければ「スルーされる」(ゼロ評価)
② 「何も起きない」ことの凄さは伝わらない
マイナスをゼロにする「守りの仕事」は、何もしなければ価値として認識されません。
「何も起きなかった」のではなく、「プロが未然に防いだ」という事実を、顧客は知る由もないのです。
だからこそ、黙っていても伝わるという職人の美学は、この構造の前では無力です。
4.欠けていたのは“翻訳(言語化)”だけ
① 「作業」ではなく「リスク」を語る
ここまで読んで、「税理士は損な仕事だ」と感じたかもしれません。
しかし、悲観する必要はありません。あなたの仕事には、間違いなく「高単価」に値する価値があります。
欠けていたのは、専門家の言葉(To Do)を、経営者の言葉(To Be)に変換する「翻訳(言語化)の技術」だけです。
例えば、「リスク」を語る際は、以下のように階層化して伝えます。
(1)税務リスク:「この処理は否認される可能性があります」
(2)金銭的リスク: 「追徴課税と延滞税で、数百万のキャッシュアウトが発生します」
(3)経営リスク: 「何より、銀行からの信用格付けが下がり、次の融資に響きます」
ここまで言語化して初めて、顧客は「安さ」ではなく「安心」を基準に選び始めます。
② 「作業員」から「守護神」へ
言葉が変われば、役割が変わります。
今日からご自身の役割を、単なる「作業員」ではなく、いわば企業の「守護神」だと定義し直してください。
5.おわりに
税理士の価値は“見えていない9割”にあります。問題は能力ではなく、翻訳不足だったのです。
では、具体的にどう言葉を変えればいいのか?
次回からは実践編です。「作業員」から「守護神」へと評価を変えるための、具体的な翻訳テクニックを公開します。

