脱・作業代行!税理士の適正対価を守る『価値翻訳』講座⑤ 選ばれるための「松竹梅」サービスメニュー設計

1. 導入:「一律料金」があなたの首を絞める理由

 ① 「いくらですか?」と聞かれた瞬間、思考停止が起きる

「顧問料はおいくらですか?」

「月額〇〇万円です」

「うーん、ちょっと高いですね……」

この会話、何度繰り返してきましたか?

実は、この交渉がうまくいかない最大の原因は、提示した金額そのものではなく「選択肢が一つしかないこと」にあります。

人間は、提示された選択肢が一つだけだと、無意識に「買うか、買わないか(Yes or No)」という二者択一の判断を迫られます。

これは顧客にとって心理的負担が大きく、「失敗したくない」という防衛本能から、どうしても「No(断る)」や「値下げ要求」に傾きやすくなります。

一方で、もし選択肢が複数あったらどうなるでしょうか?

顧客の脳内は「Yes or No」から、「どれにするか(A or B or C)」という比較検討モードに切り替わります。

単価アップの第一歩は、この「問いの質を変えること」から始まります。

「契約してくれますか?」と頼むのをやめ、「どのプランが御社に合いますか?」と選ばせる。この構造を作るだけで、交渉の主導権は劇的にあなたの手元に戻ってきます。

② メニュー表は「値上げ」のための道具ではない

「松竹梅を作れと言われても、うちは特別なコンサルなんてできません」

そう思われるかもしれませんが、誤解です。

サービスメニュー(松竹梅)を作る目的は、新しい高額商品を売りつけることではありません。

「あなたが売りたい適正価格(竹)」を、顧客に気持ちよく選んでもらうことが最大の目的です。

・何も言わずに全部やってあげる(一律料金)

・安くする代わりに責任範囲を限定する(梅プラン)

・手厚く対応する代わりに高単価をもらう(松プラン)

このように、あなたの業務と責任の範囲を「可視化」し、顧客自身に選ばせる。

それは、ブラックボックス化していた税理士業務を透明にし、お互いの納得感を高めるための「親切な設計」なのです。

本記事では、新しい業務を一切増やさず、既存の業務(時間・頻度・責任)を切り分けるだけで、明日から使える「松竹梅メニュー」を作る方法を解説します。

2.心理学で解く:「竹」が選ばれる必然のメカニズム

① 人は「極端」を回避し「真ん中」を選ぶ

なぜ、うな重やコース料理には「松・竹・梅」があるのでしょうか。

これは行動経済学における「極端の回避性(ゴルディロックス効果)」を利用した、最強の価格戦略だからです。

人は、3つの選択肢を提示されると、一般的に以下の心理が働きます。

・松(高価格):「贅沢すぎる、失敗したら損だ」と敬遠する

・梅(低価格):「安すぎて不安、品質が悪いのでは」と警戒する

・竹(中価格):「これなら無難で安心だ」と納得する

行動経済学の分野では一般的に、3段階の価格設定を用意すると、過半数の人が真ん中の「竹」を選ぶ傾向があると言われています。

つまり、あなたが「この金額で契約したい」と思っている価格を「竹」に設定し、それを挟むように「松」と「梅」を作ればよいのです。

これまでは価格だけで迷っていた顧客も、メニュー表を見せるだけで、自ら進んで「竹(標準プラン)」を選んでくれるようになります。

② 「松」と「梅」の本当の役割

ここで重要になるのが、脇役である「松」と「梅」の設計思想です。

多くの税理士がここで間違いを犯します。

×間違い: 「松」を売ろうと必死になり、「梅」をただの安売りプランにしてしまう。

⚪︎正解: 「松」は憧れと基準を見せるための比較対象(アンカー)であり、「梅」はリスクを可視化するための判断基準である。

特に重要なのが「梅プラン」です。

梅プランは、単に作業を減らして安くするのではありません。

「安くするなら、プロとしての責任(リスクチェック)も外れますが、それでもいいですか?」という選択の責任を明確にする役割を持たせるのです。

Vol.2〜3で伝えてきた「リスク」や「経営防衛」の概念が、ここで効いてきます。

「安さ」を選ぶことの怖さをメニュー表上で表現することで、顧客は論理的に「竹(安心)」へと誘導されます。

3.実践:コンサル不要!「時間と責任」の切り売りテクニック

① 新しい商品は要らない。「スライス」を変えるだけ

では、具体的にどうやってメニューを作ればいいのでしょうか。

「MAS監査も経営計画もできないから、差がつけられない」と悩む必要はありません。

メニュー作りの極意は、新しい食材(コンサル)を足すことではなく、今ある食材(税務顧問)の「切り方(スライス)」を変えることです。

具体的には、以下の3つの軸だけで十分な差別化が可能です。

1.  頻度(Frequency): どれくらいのペースで会うか

2.  速度(Speed): どれくらいの速さで返すか

3.  範囲(Responsibility):どこまで責任を持つか

② 誰でも作れる「松竹梅」のスペック表

この3つの軸を組み合わせると、明日から使えるメニュー表が完成します。

【松プラン(高付加価値型)】

・頻度:毎月訪問(またはZoom面談)

・速度:チャットツール対応(優先返信)、土日緊急対応可(※要事前合意)

・範囲:全証憑の監査、発生主義、部門別会計対応

・価格イメージ:標準より明確に高い設定

【竹プラン(標準・推奨型)】

・頻度:3ヶ月に1回の面談(試算表は毎月送付)

・速度:メール・電話対応(3営業日以内)

・範囲:重要科目の監査、現金主義ベース

・価格イメージ:あなたが売りたい標準価格

【梅プラン(廉価・機能制限型)】

・頻度:年1回(決算時のみ面談)

・速度:質問は予約制、基本はメールのみ

・範囲:記帳代行の結果確認のみ(※証憑突合なし)

・価格イメージ:標準より割安な設定

見ての通り、新しい業務は一つもありません。

「毎月会うか、年一回か」「チャットか、メールか」。

これらは全て、あなたの「時間(工数)」と「責任の所在」の切り分けです。

多くの税理士は、つい無意識のうちに、月額1万円の顧客にも「松プラン」並みの即レス対応をしてしまっています。

それをやめ、「即レスが欲しければ松を選んでください」と提示する。これが適正対価を守る第一歩です。

4.応用:「梅プラン」という最強の防衛盾

① 「高すぎる」と言われた時の切り返し

このメニュー表が真価を発揮するのは、見積もり提示後に「もう少し安くなりませんか?」と言われた瞬間です。

一律料金しかない場合、あなたは自分の身を削って(あるいは隠れて)値引きするしかありません。

しかし、メニュー表があれば、こう答えることができます。

> 「かしこまりました。予算を抑えたいということですね。

> それでしたら、こちらの『梅プラン』がございます」

ここで堂々と安いプランを提示します。ただし、必ず「リスクの説明」をセットにします。

② リスクを説明して「竹」に戻す

> 「梅プランであれば、ご希望の予算内に収まります。

> ただし、訪問頻度が年1回になるため、期中の節税対策はできません。

> また、日々の監査を行わないため、税務調査が入った場合のリスク対応は『当事務所の関与範囲外(別途有償)』となりますが、よろしいでしょうか?」

こう言われて、「はい、リスクを負います」と即答する経営者は稀です。

大抵は「えっ、それは困るな…」と躊躇します。

そこで、すかさずこう添えます。

> 「もし、税務調査のリスクを回避し、私が責任を持って毎月チェックすることをご希望でしたら、やはり『竹プラン』が最もコストパフォーマンスが良いのでおすすめです」

これが、「選択肢を示すことで、自然と竹が選ばれる」という構造です。

梅プランは、実際に売れる必要はありません(売れても工数が少ないので利益は出ます)。

重要なのは、「安易な値下げ要求に対し、機能を削ることで対抗する(安易な値引きに応じない)」という姿勢を見せることです。

5.【おわりに】

メニュー表を作ることは、顧客を突き放すことではありません。

「ここまでは私が責任を持ちます(竹・松)」「ここからは関与範囲外となります(梅)」という、プロとしての責任境界線を引く行為です。

この線引きがあるからこそ、あなたは過剰な要求に疲弊することなく、適正な報酬を受け取り続けることができます。

ぜひ、次回の提案からは「3つの選択肢」を用意して、堂々と交渉のテーブルについてください。

さて、価格の合意が取れたら、最後はそれを「書面」に残す仕上げの工程です。

次回(Vol.6)は、ブラックボックスを開ける「詳細見積書」の作り方について解説します。

「顧問料一式」というドンブリ勘定をやめ、納得感を最大化する見積もりの細分化テクニックをお伝えします。