1. 導入:なぜ、あなたの「試算表」は社長に読まれないのか
① 「郵送でいいよ」と言われたら危険信号
「先生、忙しいから今月の試算表は郵送でいいよ」
「数字はクラウドで見れるから、わざわざ来なくても大丈夫です」
もし、顧問先からこう言われたことがあるなら、それは「顧客との関係性が希薄化し始めている」サインかもしれません。
これは、あなたの業務が不要になったわけではなく、「あなたが毎月届けている『成果物』に価値を感じづらくなっている」という警告です。
私たちは毎月、会計ソフトに入力し、間違いを修正し、不明点を照会し、完璧な試算表を作り上げています。
しかし、経営者にとっての手元に届く試算表は、ただの「数字の羅列」に過ぎません。
・売上がいくらか?
・利益が出ているか?
・預金はいくらか?
これだけなら、確かにクラウド会計を見れば十分です。
「正確な数字を作ること」自体はプロとして当たり前ですが、それだけを成果物として渡している限り、顧客の目には「クラウド会計への入力代行(作業)」として映ってしまいがちです。
② 「料理」ではなく「素材」を出していないか?
会計ソフトから出力しただけの試算表をそのまま渡すのは、レストランで言えば「調理前の素材(肉や野菜)」をそのまま客席に出しているのと同じではないでしょうか。
素材(数字)は、あくまでベースです。
顧客がお金を払っているのは、素材そのものではなく、プロが調理し、味付けし、安全を確認した「料理(判断と所見)」に対してです。
本記事でお伝えするのは、高価な経営分析システムを導入する話ではありません。
今お使いのExcelやWordを使い、たった一枚の「表紙」をつけるだけで、見慣れた試算表を「高付加価値な報告書」へと変える演出技術です。
「数字」を売るのをやめ、「安心」を可視化して売る。
その具体的な手法を解説します。
2.概念転換:試算表は「血液検査の結果」にすぎない
① 社長が欲しいのは「数値」ではなく「診断」
なぜ、試算表は社長の心に響かないのでしょうか。
これを「健康診断」に置き換えると、構造がクリアになります。
試算表は、健康診断で言うところの「血液検査の数値リスト」です。
専門知識のない患者(社長)に、「GOTが35で、γ-GTPが50でした」という紙だけ渡しても、「で、私は健康なの? 病気なの?」という不安しか残りません。
患者が医師(あなた)に求めているのは、数値そのものではなく、その数値を踏まえた「所見(オピニオン)」です。
・「数値は正常です。健康状態は完璧です」(安心の提供)
・「ここが基準値を超えています。食生活を変えないと危険です」(リスクの指摘)
この「一言」があるからこそ、患者は医師に診察料を払います。
税理士業務も同じです。「交際費が〇〇円でした」は事実(データ)ですが、「交際費が異常値です。税務調査リスクが高まっています」は所見(インテリジェンス)です。
あなたの月次報告には、この「医師の所見」が含まれているでしょうか?
② 「何も異常なし」を価値にする演出
多くの税理士が抱える悩みに、「今月は特に異常がないから、報告することがない」というものがあります。
しかし、これは大きな誤解です。
「何も異常がない」というのは、「あなたが何十項目ものチェックを行い、全てクリアした」という素晴らしい成果です。
問題なのは、その「チェックした事実(プロセス)」が顧客に見えていないことです。
・通帳の残高照合をした
・不明入金を解明した
・交際費と会議費の区分を判定した
・源泉所得税の納付漏れがないか確認した
これらの「見えない努力」を、あえて「見える化」してください。
「何もありませんでした」と口で言うのと、「30項目のチェックリストが全て『済』になっている書面」を見せるのとでは、顧客が感じる安心感(=価値)は雲泥の差です。

Vol.3でお伝えした「経営防衛費」という価値を証明するためには、この「私が守りました」という証拠(確認の痕跡)」を毎月残すことが不可欠なのです。
② 「何も起きない」ことの市場価値
次に、「守り」の価値をお金に換算します。
私たちの仕事の成果は「何も起きないこと(平穏)」ですが、経営者はその価値をゼロだと感じがちです。
ここで有効なのが、「事故が起きた時のコスト」を提示することです。
例えば、税務調査で主要な経費が否認された場合、本税に加え、過少申告加算税、延滞税、最悪の場合は重加算税が課されます。
一度の否認で百万円単位のキャッシュアウトが発生することも、実務上決して珍しくありません。
「顧問料は、この将来の損失リスクを未然に防ぐための、ある種のリスクマネジメント費用でもあります。さらに、一般的な保険とは異なり、毎月の試算表を通じた信用維持の機能もついています」
このように伝えることで、顧問料は「削るべきコスト」から、銀行格付けや信用維持のために「削ってはいけない防衛費」へと昇華されます。
3.実践:「システム不要」の月次報告書作成術
① 必要なのは「A4一枚の表紙」だけ
「価値を見せろと言われても、うちは高価な予実管理ソフトなんて導入できない」
そう思われるかもしれませんが、ご安心ください。必要なのは新しいシステムではなく、Excelで作った「A4一枚の表紙」だけです。
これまで通り会計ソフトから出力した試算表の上に、この一枚をホチキス止めする。
たったそれだけで、資料の意味合いが「データの出力」から「プロの報告書」へと劇的に変わります。
この表紙(月次確認報告書)に記載すべき要素は、たったの3つです。
1. 確認範囲(Scope):今月どこをチェックしたか
2. 確認事項(Findings):何を修正・確認したか
3. 税理士所見(Opinion):プロとしてどう見るか
これらは、特別な分析をする必要はなく、あなたが日々の業務で「頭の中でやっていること」を文字に書き起こすだけで完成します。
② ブラックボックスを開示する「チェックリスト」
まず1つ目の「確認範囲」と、2つ目の「確認事項」について。
ここでは、あなたの「確認と判断の厚み」を可視化します。
具体的には、報告書の下半分に「月次確認チェックリスト」を掲載します。
(※以下は一例です。顧問先の規模や契約内容に応じて取捨選択してください)
・ [済] 預金残高の照合(通帳コピーとの突合)
・ [済] 交際費・会議費の区分判定
・ [済] 消費税区分の適正性確認
・ [済] 10万円以上の資産計上漏れ確認
・ [済] 源泉所得税の納付状況確認
このように、毎月当たり前にやっている項目を羅列し、全てにチェックを入れて渡します。
もし修正箇所があった場合は、正直に記載します。
【修正事項】 消耗品費として計上されていた〇〇(15万円)について、資産計上が必要と判断し、修正仕訳を入力しました。
多くの税理士は、この修正を黙って行い、綺麗な数字だけを報告します。
しかし、それでは「何もしていない」のと同じです。
「ここが間違っていたので直しました(私が防ぎました)」とあえて報告することで、初めてあなたの「守りの価値」が伝わるのです。

4.応用:顧客を動かす「コメント力」の磨き方
① 「事実」を「所見」に変換する公式
3つ目の要素である「税理士所見(Opinion)」は、報告書の魂とも言える部分です。
ここで「売上が前年比+5%でした」といった、見ればわかる事実を書いても意味がありません。
プロのコメントとは、「事実(Fact)」から一歩踏み込んだ「解釈(Insight)」と「提案(Action)」です。
悪い例(事実のみ):
> 「今月は交際費が50万円発生しており、前月より増えています。」
> (社長の心の中:「見ればわかるよ」)
良い例(所見+リスク):
> 「交際費が50万円と突出しています。この水準が続くと税務調査での指摘リスクが高まる可能性があります(解釈)。
> 来月以降、社内会議に伴う飲食は『会議費』として処理できるよう、議事録の保存を徹底してください(提案)。」
このように、「だからどうなる?(リスク)」と「どうすればいい?(対策)」をセットにすることで、初めて社長が行動できる情報になります。
② 良いことも「褒めて」報告する
所見欄は、注意や警告だけでなく、「良い変化」をフィードバックする場としても有効です。
特にVol.3で触れた「銀行格付け」の視点は、経営者に強く刺さります。
> 「今期の利益積立により、自己資本比率が20%を超えました。
> これは銀行格付けにおける『正常先』の安全圏内をより盤石にする水準です。
> 社長の堅実な経営判断が、数字として確実に成果になっています。」
大人になると、誰かに褒められる機会は減ります。
税理士であるあなたが、客観的な数値に基づいて経営努力を承認することは、強固な信頼関係(ラポール)を築くための強力な武器になります。
「先生は、悪いところだけでなく、頑張ったところもしっかり見てくれている」
そう感じてもらえれば、あなたの報告書は毎月の「楽しみ」に変わるはずです。
5.【おわりに】
月次報告の価値は、クラウド会計のログインIDを渡すことではありません。
「今月も異常がないことを、プロの責任において確認しました」という「専門家としての安心の証」を渡すことです。
高価なシステムは必要ありません。
次回の訪問から、いつもの試算表に一枚、「確認報告書」という表紙をつけてみてください。
その一枚が、あなたの仕事を「作業代行」から「経営防衛」へと格上げする第一歩になります。
さて、価値を伝えて信頼を獲得したら、次はいよいよ「価格設定」の改革です。
次回(Vol.5)は、選ばれるための「松竹梅」サービスメニュー設計について解説します。
一律料金の限界を突破し、単価アップを実現する具体的なメニュー作りの極意をお伝えします。

